第26章 恋心
「どちらかと言うと、私より紅さんの方がお忙しいんじゃ…」
アカデミーの一教師の私と、上忍の紅さんとなんて比較対象にもならない。私がそう言うと、紅さんは私の意を汲んでくれて口元に笑みを浮かべた。
「ふふ。そうね。お互い様ってところかしら。中忍選抜試験も近づいてきてるしね」
紅さんは意味ありげにそう言った。
そうすると、ヒナタちゃんたちも受験の可能性があるのだろうか。ふと考えた後、私が前に目を向けると、もうすでに彼女の姿はそこにはなかった。
「貴女、隙だらけよ」
耳元で囁かれてビクッとする。
首元に冷たい金属が触れている。
いつの間にか彼女は私の背後に回り込んでいて、首にはクナイが突き付けられていた。
(いやだ、いつの間に!)
背筋が凍った。
つい先ほど話していたのに、彼女はもう背後にいる。
すると、話していた彼女は幻だったのか。
私は素早く体を反転させて、彼女の姿を探した。
「まずは小手調べってところね。貴女もどうぞ」
余裕の笑みを浮かべて、紅さんはクナイを持った腕を下ろした。
私は分身の術を使い、彼女を分身体で囲いこんだ。そうして幻術の印を結ぶ。
(しまった。逃した!)
彼女の姿は煙のように歪んだかと思うと、その場から消え去る。そうして、また目の前にクナイを突き付けられた。
後ろに跳躍し、今度は手裏剣を数枚投げる。それを影分身を使い増やす。今度はその隙に術の印を結んだ。
「あら、貴女…影分身も使えるの?それは意外だったわ」
手裏剣を素早くよけ、長い黒髪をなびかせながら、彼女は姿勢低く構えた。その姿はすぐにぼんやりと霞む。
(どうなってるの?全く姿が捕らえられない)
術をかける度、彼女はその場から忽然と姿を消してしまう。
あるときは残像が長く残り、あるときは煙のように歪んだかと思うと背後に現れる。その表情から美しい笑みが消えることはなく、私は何度も何度も手を変えて術を試みた。
暗器を投げつけて、封印術を用いて彼女の体を拘束する。
そうしてやっと、一度だけ彼女に幻術がかかった。