第26章 恋心
翌日、アカデミーからの帰りに演習場へと向かった。
第八班、担当上忍の紅さんからの要望に応えるためだ。
私は前日、普段教えている幻術指南書に目を通していた。そんなことをしたところで実力に大して変化はないのに、巻物を広げて復習をしたのだ。
困ったことに私がかけられる幻術は、自分自身のイメージ内でしかなく、相手がどれだけ影響を受けているのか判断しにくかった。まるで眠っているか、気を失っているように見えるだけだ。
だから、鍛錬はもっぱら精神修行になる。脳内のイメージをより鮮明にして、そこにチャクラをのせるのだ。術の強度はその時のチャクラ量で変わるから、アカデミーでは少なめのチャクラを注ぐ。
演習場へと向かいながら、私は考えていた。
身に着けたポーチやホルスターには、いつもより多めの手裏剣やクナイが入っている。それを少し重く感じる。緊張から息は浅くなる。
紅さんは、ヒナタちゃんたちに幻術をかけたと言っていた。
(つまり、紅さんは幻術を当然使えるわけで…)
通用するかもわからないのに、あれこれと作戦を練る。あの美しい微笑みまでも幻術だったとしたら、私は彼女に到底敵わないと思ったりもする。
そうこうするうちに、私は演習場に到着した。
*
指定された場所は、木ノ葉の森の中の一角で、開けた部分の多い場所だ。
見つめる先の一本の木の下に、紅さんが立っていた。
「約束通り、来てくれたのね。待ってたわ」
片手でサラリと髪をかき上げて、紅さんが微笑んだ。ゆっくりと私の方へと歩いてくる。
「すみません。お待たせしてしまって」
「いいのよ。私のわがままに付き合ってもらってるだけだから。悪いわね」
紅さんは、布を何枚も合わせた着物のような衣装を纏っている。動きやすそうな丈の衣服から、スラリと長い脚が覗く。謎めいた笑みを浮かべた後、紅さんが言った。
「じゃあ、始めましょうか。時間もそんなに取れないでしょう?」