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明日晴れたら

第25章 公園にて



(良かった…)

危うく貴重な時間が、悩み相談で終わってしまうところだった。もそもそとお団子を食べながら、色気のない自分を省みる。

「あの、テンゾウさん」
「何ですか?ナズナさん」
「私も手紙を送りたいんですけど…」

テンゾウさんは多忙で、休みがなかなか取れないことは知っている。

逆に私は休みが定期的にあった。もちろん急な業務や任務により、変わることもある。けれど、自分が休みを先に伝えておけば、もっと長い時間を一緒に過ごせるのではと思っていた。

それを伝えると、テンゾウさんは困ったように眉尻を下げた。

「送ってくれるのは嬉しいけど、僕はナズナさんの知らせをいつ読めるか…」

「そうですか…」

いい案だと思ったけれど、確かに知らせた日付が過ぎてしまえばあまり意味はない。私はがっくりと肩を落とした。

段々と夕焼けが空の下の方へと沈んでいく。
今日、テンゾウさんがここに居られるのは日没までだ。

*

ゆっくり進めばいいと思っている。
テンゾウさんは会えるとき、連絡をくれるしそれを待てばいいのだ。

空を見上げると、群青色の範囲がどんどん広がっていく。
別れが近いことを感じて寂しさが募る。それが妙な焦りを生んだ。


テンゾウさんは私の話を時々相槌を打ちながら、優しく聞いてくれるけど、彼自身は質問しない限りあまり話さない。

質問する内容によっては、曖昧に笑うばかりではっきりと返答がないこともある。そういう時、彼の黒い瞳には何も映っていない。それが気になっていた。

誰にだって話したくないことはある。
ましてや知り合ったばかりの人だ。知りたいばかりに、強引に心に踏み込むことはしたくなかった。テンゾウさんには、そう思わせる繊細な部分があった。

「お団子、もう一本どうですか?」
「ありがとう。君はいいのかい?」

ふと出た親しげな口調に、思わず彼の目を見る。

「あ、うん。二本ずつ用意したから…」
「そう。それなら遠慮なく」

ひょいと串を掴み、彼は食べ始めた。

(気付いてないのかな)

礼儀正しい言葉と、昔からの友人のような砕けた口調が入り交じる。それを少し嬉しく感じている。


夕焼けの茜色は、もう地上のほんの一筋を残すだけになっていた。

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