第25章 公園にて
私はお団子を食べ終えて、串を片付けた。もう温(ぬる)くなってしまったお茶を飲み干す。そして、前方を見つめているテンゾウさんに話しかけた。
「テンゾウさん」
「何だい?」
「私、貴方のことをもっと知りたいです…」
テンゾウさんは眉をひそめた。
真意を探るように私の目を見つめる。
「話せないことはいいんです。でもいつか、貴方がいいと思ったときでいいので…あとちょっとだけ、私にも教えてくださいね」
微笑みながら、さり気なく言うつもりだったのに、その声は微かに震えた。だから、彼は手に持ったカップをベンチに置き、こちらに体を向けた。
「どうしたの?急にそんなこと…」
「折角会えても、私が話すばかりでこれでいいのかなと思ったから…」
彼が何かをひた隠しにしている気配を感じていた。
それでいて何故忙しい時間を割いて、私に会ってくれるのか不思議に思っていた。その理由を、私は知りたかったのかもしれない。
彼はふっと笑って、目を細めた。
「僕は…そうだな。ナズナさんと会うとほっとする。だから、少しでも一緒に過ごせたら、それでいいんです」
「でも…」
「貴女に会うと、この里に帰ってきたことを強く実感できる」
もう公園は薄暗くなっていた。完全に日が落ちたようだった。人通りはなくて、公園には二人きり。
テンゾウさんは丁寧に言葉を継いだ。落ち着いた声は、私の耳にはっきり届いた。
「ナズナさん、もう少しだけ待っていてくれませんか?」
「……」
「何もかもとはいかないけど、僕のこともお話しします」
薄闇の中、テンゾウさんの瞳が一瞬猫の目のように光った。
「どうかそれまで」
彼はそう言って、膝に置いていた私の手をそっと握った。
大きな手で包み込むように。
そうして、彼は音もなく姿を消した。