第25章 公園にて
「まさか、ナズナさんが手合わせを?」
テンゾウさんは、意外そうに声を上げた。高台にある公園のベンチに、二人並んで座っている。
夕焼けで染まった空を眺めながら、私は力なく頷いた。
「そうなんです。それも明日、上忍の方とですよ。お見せできるような術ではないのに…」
待ち合わせ場所から歩き、公園にたどり着いてすぐ私が話したのは、先ほど出会った紅さんとのやり取りについてだった。
「甘栗甘」の前で、何と紅さんから、私の幻術の腕前を見せて欲しいと言われたのだ。
アカデミーで、まだ幻術を全く知らない子供たち相手に教えていることだ。幻術を使いこなしている上忍の方相手に披露するなんて、と私は気後れしていた。
「私、断ったつもりだったのに」
美しく微笑む彼女に魅せられて、いつの間にか頷いていた。あれこそ、正真正銘くノ一の術だと後悔する。
ぼそぼそと呟いていると、テンゾウさんが苦笑した。
「何をまた。貴女だってくノ一でしょう?」
「それは、そうなんですけど…」
やっぱり綺麗な人は違うでしょう?と口にしかけて、私は口をつぐむ。テンゾウさんが返答に困ったりしたら、それはそれで少し落ち込む。
「それほど心配することはないのでは?いつもの貴女を見てみたい、と言う意味だと、僕は思いますけど」
テンゾウさんは、私の顔を覗き込んだ。お茶の入ったカップを私の前に差し出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
カップを受け取ると、まだ温かい。
ふっと膝の上にある袋に目を落とす。
私は彼に会った途端、自分のことを話し始めていた。テンゾウさんは、それを優しく聞いてくれている。今日は短い時間しか取れないと聞いていたのに、何て勿体ないことを。
「そうだ!今日はお団子を買ってきて…」
私はごそごそと紙包みを開けた。
みたらし、三色、草団子といくつかの種類を見せる。
「テンゾウさんは好き嫌いはないって言ってましたよね。これ、一緒にどうですか?」
「ああ、覚えてくれてたんですね。じゃあ、一本もらおうかな」
両手に載せたお団子の一本を、テンゾウさんは手に取った。私も一本取り、残りをベンチの脇に置いた。