第5章 記録
ある日の夜のこと。僕は自宅にいた。
真新しいノートを開き、借りてきた書物の内容を書き写している。
昼夜問わず、駆り出されれば任務に赴く。今や自宅は、ただ眠る為だけの場所になっていた。それでもその合間を縫って、こうして学習のような、趣味のような書き物を続けている。
どちらかと言うと、趣味か。
ノートに記録されているのは、主に建築に関することで、気になった建物の展開図や立体図、また建築にまつわる事柄を、取り留めもなく書き記していた。
勉強も兼ねて始めてから、しばらく経つ。だから、ノートは今やたまりにたまって、二十冊ほどになる。使っているのはほぼ同じ種類のノートだ。
薄茶色の表紙の厚みのあるノート。
書き心地の良さが気に入って、度々それを選んでいた。購入するのもほぼ同じ店だ。品揃えのいい、こじんまりとしたところで、店主のつかず離れずの接客がありがたい。
正直、馴染みの客、なんて覚えられても困る。
誰でもない、ただこの里の住人でいることが一番なのだ。
僕は、そのような生き方を長くしている。