第4章 内緒ごと
私は巻物を運んでいる途中に、廊下で彼と鉢合わせた。遠目で一部始終を見ていたから、本当は引き留めなければならない。一方通行の廊下で、後ろには誰もいなかった。
「げ、ナズナ先生…」
立ちふさがる私を見て、ナルト君は一歩後退った。きっと、叱られると思ったのだろう。背中を丸めて上目遣いにこちらを見ている。
「…こら!無断で持ち出すのは駄目だよ」
彼の前に仁王立ちして、私はそう言った。
「だけど、だけどさ!」
共同授業は、彼にとって残念な結果に終わってしまった。それをとても気にしているようだった。
そのまま横を通り過ぎて走り去ってしまうかと思っていたのに、不思議と彼は立ち止まった。真剣な眼差しを私に向けた後、小さな声で呟く。
「……俺ってば、皆をあっと言わせたくて」
子供らしい、その必死さに胸打たれて、私はふっと息をついた。彼に近づいて、そっと耳打ちする。
「さっき見たよ、変化の術。とっても美人だったね」
ニッと笑って彼の目を見ると、彼の澄んだ青い瞳が瞬いた。私の言いたいことが伝わったのか、ナルト君は嬉しそうに口元を緩ませる。
「へへへ。先生!分かってるぅ!」
「ほら、今のうちに早く行きなよ」
「え?いいの?」
「他の先生には、捕まえられなかったって言っとくから」
「あ、ありがと。ナズナ先生……」
戸惑いながら、ナルト君が足を踏み出す。その背に一言話し掛けた。
「ただ、無断で持ち出しは駄目よ。見逃すのは、今回だけだからね」
ナルト君は、その言葉には答えず口をもごもごと動かして、何か呟いては素早く去って行った。
このとき、私は教師の身でありながら、生徒の悪戯を見逃した。それが、彼と私の小さな秘密だ。
*
私は倒れた男性教員を助け起こして、まるで今この場に来たかのように介抱した。恥ずかしそうに鼻血を拭う彼は、少し痛々しくて、悪いとは思いつつ笑いを堪える。彼の手には取り戻した巻物が握られていた。
それは、分身術の巻物だった。