第23章 縁
「あのときはびっくりしました。まさか、アカデミーに手紙が届くとは思わなかったので」
ナズナさんはそう言って笑っていた。
同僚と共に、果たし状かと恐る恐る封を切った結果、僕からの伝言だと気づき安心したと。
そう。
連絡するといっても彼女についての有力な情報は、アカデミーの現役の教師ということだけだった。だから、考えた挙句の苦肉の策がそれだったのだ。
つらつらと長文をしたためたところで、彼女に届かなければ意味がない。怪文書だと早々に処分されてしまうことも予測していたが、指定した文具店に彼女が現れた時には本当にほっとしていた。
笑顔で駆け寄ってくる彼女に、不覚にも胸が高鳴ってしまったくらいだ。
「内容も果たし状みたいでしたし」
「それを言われると言葉もないな。必要なことを…と思ったら最終的にあんな形になってしまって」
「でも…」
ナズナさんは届いた水で口を潤してから、目を伏せて言った。
「連絡があって…こうしてまた会えてよかった」
僕は徳利を手に取り、動きを止めた。
「…ナズナさん」
「あれきりになってしまうかと」
僕の動きに気づいたのか、彼女がお猪口を手に取りこちらを見上げた。口元が悪戯っぽく、弧を描く。
「よっぽど、カカシさんにでも聞いてみようと思ったくらいです」
「う、それだけは勘弁してほしいな。…気づいてもらえてよかったですよ、本当に」
彼女の口から意外な名前が出て、言葉に詰まる。
確か先輩は国外の任務に赴いているはずだ。不謹慎だとは思いつつ、彼がまだ帰国していないことに安堵の息を吐く。
もしもそんなことになったら、どれだけ揶揄われることになるんだろう。