第23章 縁
(…ああ、またか)
ひと月だ。
長い付き合いの者であれば、久しぶりという言葉でまた元の関係に戻るかもしれない。
だが彼女は出会って間もない女性だった。伝えた言葉に効力はなく、すぐに忘れられてもおかしくはない。また自然消滅かと諦めていた。
今までもいい雰囲気になった女性と、同じような状況でつながりそうだった縁が度々途切れている。
*
そんな折、彼女を見かけた。
僕は休む間もなく受けた任務を終えて、アカデミーへと向かっていた。そのとき、ナズナさんが同僚と思しき男性教師と、校庭を歩いているのを目にした。
ナズナさんは、校庭に残っている生徒に声を掛け、下校を促しているようだった。隣にいる男性教師も別の生徒を追い立てている。何人かの生徒の背を押した後、二人は肩を並べて建物の方へと戻っていく。
どちらかが話すと、どちらかが笑う。
付かず離れずの距離で和やかに会話を続ける二人を見て、僕の胸はざわついた。
彼女には違う世界があって、その場所にも縁は存在する。
同じ場所で働く者同士なんて、理想的な関係じゃないかと思えば、一瞬手の届かない人のように感じてしまった。
同じ里に住んでいる、ごく普通の女性だと思っていたのに。
(それだけの縁か…)
背を向け脚に力を入れて、飛び立とうとした。
すると、不思議なことに彼女がこちらに目を向けた。一瞬動作が止まり、彼女の方を見ると確かに僕を見ていた。それから一度首を傾げて、また建物に向かって歩き出した。
(…気づかれた?)
僕は面を付けており、暗部の忍び装束を身に着けている。彼女はその姿を目にしたことはないし、ましてや数多くいる暗部の内の、一人を遠目で特定できるとは思えなかった。
彼女の口から、「暗部」という言葉が出たことはない。知っているといっても、稀に見かけたという程度だろう。
(いや、まさかね)
気を取り直して、僕は執務室へと向かった。
素早く屋根を伝いながら、しばらく考えた。
振り返ったナズナさんはやはり彼女であって、この縁が途切れるのを僕は惜しいと感じた。
だから僕は、何日かの葛藤の末、彼女宛てに手紙を送るという行動に出たのだ。