第23章 縁
僕は今、酒酒屋にいる。
日が落ちて間もない夕食時で、店内は段々と賑わいつつあった。
目の前にはうんざりした顔のカカシ先輩ではなく、始終上機嫌なナズナさんが座っていた。メニュー表を覗き込んでは、何を頼みましょうかと目を輝かせて僕に話しかけてくる。
「前に来た時、僕は焼売を食べましたけど結構美味しかったですよ。あと、炒め物なんかどうです?」
「焼売!いいですね。…炒め物、炒め物…あ、ここかな」
冊子になったメニュー表を、ナズナさんがめくっている。
「卵と木耳の炒め物、あ、トマトが入ってるのもある。こっちのがいいかなぁ。テンゾウさんは何がいいですか?」
「ナズナさんの選んだもので構いませんよ。僕、特に好き嫌いはないんで」
聞くと、外食はあまりしないようで、ここに来るのは随分と久しぶりだと言う。アカデミーの教師陣で、歓送迎会などで訪れる以外は利用する機会がないらしい。
まだ酒も飲んでいないのに、心なしか頬が上気しているように見える。甘いものも出来たら食べたいと、メニュー表に隈なく目を通しているところが可笑しくて思わず笑みが漏れた。
「ナズナさん、そんなに慌てなくても。まだ来たばかりですよ」
あからさまに笑うのも失礼かと思い、緩む口元をそれとなく隠す。
「そ、それもそうですね。ごめんなさい…何だか一人で興奮してしまって」
恥じらうように笑い、彼女はメニュー表を一旦閉じた。席に来た店員にいくつか料理を注文し、彼女は前を向いた。一度僕の目を見て、満足気に微笑む。
僕は連絡が届いたことに、心から感謝した。
*
——また、連絡します。
そう言って、彼女を置き去りにして早ひと月が経とうとしていた。
緊急の呼び出しで、急ぎ身支度を整えて三代目の元を訪れた後、すぐに追跡調査を命じられた。秘伝の巻物を盗み逃亡した賊は、国境を越えて風の国へと向かっていった。追跡は巻物奪還と容疑者の捕縛となり、巻物を取り戻すまで一度もこの地を踏めなかった。
無事任務を終えたとき、ふとその時の言葉が思い出された。