第1章 幼馴染
「お久しぶりです。お嬢様。」
黒い執事服に身を包み、ぴったり30度の角度で頭を下げる女性。
『・・・ばあや。』
御影家の使用人、通称「ばあや」
彼女は長年御影家に仕え玲王の世話係をしている。
「そんなお顔をされて、玲王お坊ちゃまとケンカでもなさいましたか?」
『・・・・ケンカ、とは違うかな…。
私が一方的に突っ掛かっただけだから…』
もごもごと言葉を濁して俯くと、ばあやがフフッと笑った。
え?と顔を上げると、
「フフフ、申し訳ございません。つい嬉しくて。」
『ーーー嬉しい…?』
「はい。お坊ちゃまと喧嘩してくれる方が側にいてくれる事が嬉しいんです。」
よく意味がわからず首を傾ける。
『玲王は友達多いし、男なら喧嘩する相手ぐらいいると思うけど…』
「そうでもないですよ?子供の頃はよく喧嘩もなさっていましたが、御影コーポレーションの御曹司という肩書きのせいか、成長するにつれて本気でぶつかり合う相手が居なくなってしまったように思えます。」
ばあやは眉を下げ寂しげに微笑んだ。
「お坊ちゃまにとってお嬢様は特別な存在なんですよ。」