第8章 試合の前日
『えっ⁈あ、すいませんっ!頭の中でシュミレーションしてました…‼︎
知識としては頭に入ってるんですが、実際に選手にするのは初めてなもので、、、』
「シュミレーションなんていーって。
こーゆうのってさ、実際やってみなきゃ分かんないもんでしょ。
人それぞれ筋肉のつき方だって違うし。
俺の脚、実験台だと思って気軽にやればいーじゃん。」
『実験台なんてそんなっ……!』
「いーから。あ、ちなみに俺は正直にダメならダメって言うタイプだから。」
綺麗な目がスッと細まる。
私は改めて背筋を伸ばしてお辞儀をした。
『は、はいっ…‼︎じゃあ宜しくお願いします…‼︎』
ゴクリ、と喉を鳴らし引き締まった足に手を掛けると、千切さんがフッと笑い眉を下げた。
「緊張し過ぎ。こっちまで緊張感が伝わってくんだけど(笑)」
『すす、すいませんっ、、‼︎
初めてやる緊張もあるんですけど…、千切さんの足の筋肉があまりに美しくて。
アスリートって感じですね…』
「美しいって…何かそれ恥ずかしいんだけど。」
『あっ…ですよね…。すいません…』
マッサージクリームを足全体に伸ばしながらまずは軽く揉みほぐしていく。
千切さんは選手の中では細身な方だけど、足の筋肉の密度が人一倍高いんだな、と触って感じた。
施術中、色々ダメ出しされると思っていたけど、意外にもダメ出しは一つも無く、静かな空間の中でマッサージは進んだ。
この足で一試合でも多く走れるように…と勝手に念を込めながら、とくに右足は入念にマッサージをした。