第8章 試合の前日
右膝前十字靭帯断裂。
ここへ来た日の夜、選手のデータを頭に入れている時、千切さんが過去に負った大怪我を知った。
それが今も尚、彼の中でいつ壊れるか分からない爆弾になっている事も…。
千切さんはスウェットを膝まで捲ると、マットの上で肩膝を立てた状態で座った。
「俺の足の事、知ってたんだ?」
『・・一応、選手全員のデータは頭に入れてあるので…』
「ふーん、真面目なんだね。」
『いえ、、、そんな事ないです……』
会話はほとんど上の空で、私は頭の中でシュミレーションをしていた。
いつか役に立つかもと思い、夜な夜な観ていた足のマッサージケアの動画を思い出しながら…。
『ーーー…まずは、、』
「・・・?」
『ーーーこうしてーー。』
「・・・・・・え?」
『・・・・揉みほぐすように・・・』
「ちょっと、、、何?大丈夫?」
ぶつぶつと独り言を呟くばかりで、いつまでたっても触ろうとしない事を不思議に思ったのか、千切さんが不安そうな声を上げた。