第2章 友達以上恋人未満
顔を洗う為にトイレに入り、鏡の前に立つ。
「うわ……酷い顔……これじゃ、戻れないな……」
鏡で自分の顔を見て、苦笑するしかない。
冷たい水が気持ちいい。
何とか落ち着いた私は、トイレを出ると友人が待つ所まで戻る。
「ん? あれ、蘭?」
「よぉー、おかえりー、ちゃん」
私の驚きと共にチャイムが鳴る。
友達と一緒にいた蘭が軽く手を上げた。
「もういいの?」
「うーん、ちょっとだけど、さっきよりは腫れ引いたかな?」
「うん、ありがとうね、二人共。ていうか、蘭は何してんの?」
「ちゃん待ち?」
蘭が私を待つとは、何かと不思議に思っていると、ニコニコしている蘭が近づいて来る。
そして突然、体が宙に浮いた。
「わっ! ちょっ、何っ!?」
「まぁまぁ、ちょーっと俺とお出掛けしよー」
「程々にしなよ」
「そーそー、も楽しんでー」
友達二人のお気楽な声が遠ざかる中、私は蘭の肩に担がれて廊下を見世物にされている。
「?」
「また何事だよ」
聞き慣れた声がし、そちらを向く事は許されなかったけど、今はその方が助かる。
まだ腫れの引かない顔を、見られたくはない。
獅音とイザナ君を見る事すらせず、私は蘭の背中の制服を無意識に握る。
「今からおデートすんだよ。いーだろー?」
「ちょ、蘭っ! どさくさに紛れてお尻触らないでよっ……」
「えー、ちっとくらいいーじゃーん」
担ぎながら、蘭が私のお尻を軽く撫でた。
「お前っ……」
「何でお前が怒んの? 俺との色恋沙汰なんて、他人のお前には関係ねぇだろ? あー、違うな。お前家族だっけ? じゃ、借りてくねー」
呼び捨てになっている事より、蘭が獅音を煽っているように感じた。
蘭は何がしたいんだろうか。
声を掛ける獅音を残し、蘭は廊下をスタスタと歩き出した。
階段を降りて、靴箱まで来ると、ゆっくり降ろされる。
「蘭、一体何企んでんの?」
「何も企んでないよー。失礼だなぁー」
全く信じられない怪しい顔で笑い、蘭が私の靴を用意する。
「どうぞ、お姫様」
「何か、怖いな……」
「まぁまぁ。何も気にせず楽しもーぜ」