第1章 斑目君と全力少女
スマホを片手でイジる竜胆君に歩み寄る。
「兄貴は今購買行ってるんで。つか、さんは獅音先輩と一緒じゃないんスね」
「うん。獅音はイザナ君達といるんじゃないかな。ポケットに入れて持ち歩きたい」
「はは、さんて、獅音先輩大好きっスよね」
苦笑する竜胆君との世間話もそこそこに、中庭へ向かう。
「はっ!? 獅音の気配っ!」
「……何か、もうここまで来たら、尊敬するわ」
私の鼻は間違っていなかったようで、中庭にある大きな木の下で寝転がるイザナ君を囲うように、複数の男子生徒がご飯を食べている。
「も、モグモグっ……モグモグしてるっ! ねぇ、モグモグしてるっ!」
心臓を押さえながら、口いっぱいにご飯を頬張ってモグモグしている獅音に、可愛さの余り身悶える。
「そりゃ、ご飯食べてんだから、モグモグくらいするでしょーよ」
友達が呆れたような声で言う。
「で? 輪に入る? どっか別行く?」
もう一人の友達が言ったのと同時に、私の背後で気配がしたかと思うと、抱きつくみたいにズシリと重みが伸し掛る。
「おやおやー、ちゃんじゃねぇーのー。お友達もこんにちはー。今からご飯ー?」
「お、重っ……」
香水で誰かが分かってしまう。この甘ったるい話し方といい、背の高さといい、後ろから抱きつかれているのに、顔の横に垂れている三つ編みは一人しかいない。
「ちょっ、蘭っ! 重いっ……」
「蘭君も今から?」
「うん、そー。せっかくだし、あっちで一緒に食おーぜー」
「兄貴、いい加減さん離してやれって」
「やめろ、が潰れる……」
竜胆君の言葉の上から、食い気味に違う声がした。
いつの間にか、私の手と蘭の腕を掴んでいる獅音がいた。
「おっと、こえー顔。ごめんごめーん、んな怒んなって斑目ー」
悪いとは思ってないであろう声音で言う蘭は、フラリとイザナ君の所へ行ってしまった。
「昼、食うんだろ?」
「あ、うん」
答える私の手を掴んだまま、獅音が歩き出したから、私達も輪に入れてもらう事になった。
隣に座って、また食べる事を再開した獅音を横目に見る。
大勢で食べる事は珍しくないから、友達もイザナ君とその友達と違和感なくワイワイしている。