第1章 斑目君と全力少女
言うと、私の手を取って立ち上がった獅音が、少し照れたみたいに頬を赤らめた。
「……いいのか?」
「うん。いーの」
捨てられた子犬みたいに、困ったように眉を下げて聞く獅音に私は笑った。
可愛過ぎやしませんか。何だろうか、この可愛い生き物は。
身悶えたいのをグッと我慢して、獅音の家に入る。
獅音の家は母子家庭で、忙しいおばさんが帰るのは夜遅くになる事が多い。
だから、よく私の家でご飯を一緒に食べたり、獅音の家で二人で食べたりするから、獅音の家に出入りするのは私達には当たり前で、日常になっていた。
救急箱を出してくるのも慣れたもので、大人しくソファーに座って待つ獅音の隣に座る。
「また派手にやられたねぇー」
「で、でも、勝ったしっ……」
眉間に皺を寄せて話す獅音の、切れた目元の傷を消毒する。
絆創膏を貼り付け、私は彼の顔に近づいた。
───ちゅっ。
絆創膏の上からキスをする。
獅音が顔を真っ赤にするから、それが見たくて続けている。
獅音は素直だから、私が最初にこれを始めた時に“子供の頃から怪我をした時には必ずおまじないをしてもらっている”と言った理由をいまだに信じていた。
幼い頃に何度かしてはもらったけど、さすがにこの歳でしているわけもなく。
でも、最初にしどろもどろで慌てふためく姿が可愛過ぎて、素直に信じてなすがままな獅音を見ていると、やめるにやめられなくなってしまっている。
「……ここ、も……痛ぇ……」
「ん? うん、分かった」
どれだけ小さな傷でも、私はそこを手当てして、キスをする。
いつもの仕上げにと、傷なんてない額にキスをして、ゆっくり視線がぶつかった。
獅音は相変わらず真っ赤な顔で、困ったように瞳を揺らす。
「危ない事は、あんまりしちゃダメだよ? おばさんもだけど、私だって心配するんだから」
「お、おぅ……」
照れながら、視線を逸らした獅音に気づかれないように、クスリと笑った。
二人で並んで歩いて、学校に着いたものの、もちろん門は閉まっていて。
どうしようか悩んでいたら、獅音が私の手を取る。
「こっち」
裏に回り、丁度いい場所に足の掛けられる窪みがあって、そこに足を掛けて、獅音は軽々と塀を飛び越えた。