第1章 斑目君と全力少女
肌が丸見えの左側の頭から首にかけての大きなタトゥーに、左の口の下側に伸びる傷。
ピアスだらけの両耳と、右へ流すモヒカンとはちょっとちがうけど、なかなかに奇抜な髪型。
絶対交わる事がない世界に生きる人。
なのに、何でこんなにも可愛いのか。
出会いは入学式の前日。
隣の家に引っ越してきた人が、挨拶に来たのを何気なく見ていたら、彼と目が合った。
最初は髪を下ろしていたものの、その見た目に一瞬「うわぁ」と思ったけど、照れたみたいに軽く頭を下げた彼に、心臓が少し跳ねた。
彼の名前は、斑目獅音。
同じ歳で、何故かメリケンサックを常備しているという、聞いたらいかにも物騒な不良だ。
翌日から、しょっちゅう登校時間が重なって、何か言う訳でもなく一緒に登校するようになって、よく話すようにもなった。
「おはよ、斑目君」
「獅音でいい」
「じゃ、私はでいいよ」
仲良くなり、名前を呼び合うようになり、彼の色んな顔を見るようになって、私が彼に惹かれるのに時間なんて掛からなかった。
うちの学校は、不良が圧倒的に多い。印象では、不良はあまり学校に行かないと思っていたけど、うちの学校の不良達はなかなかに出席率がいい。
なんていい子達なのだろうか。
今日も平和な一日が、と思っていたら、獅音が家の前で座り込んでいた。
ヤンキー座りというやつで、私に気づいてフワッと笑う。
この瞬間が、一番好きだ。
狂犬と言われ、喧嘩ばかりして、怖い見た目の彼が、私を見る時に向けてくれる、優しくて可愛い顔だ。
「よぉ」
「ちょっ、何、どうしたのよその顔っ! また喧嘩したの?」
「んー……まぁ……」
傷だらけの顔と、土と血で汚れた服で、何処を見るでもなく、私から目を逸らして何とも言えない顔をした。
「獅音にも色々あるだろうし、別に喧嘩するなとは言わないけど、毎回こんなにボロボロになって。おばさん、また心配しちゃうよ?」
「ん……」
ハンカチで血を拭うよう顔に優しく当てると、短い返事をした。
手を握って立ち上がらせる。
「とりあえず学校は、手当てしてからね」
「え……でもお前が、遅刻しちまう」
「いいよ、別に。せっかく待っててくれたんだし、私は獅音と一緒に行きたいから」