第2章 友達以上恋人未満
何かに気づいたみたいな顔をした蘭が、私に近づいて腰に手を回して引き寄せた。
「ちょっとイタズラするけど、今だけだから、許してな?」
「何……んっ、ぁ……」
首筋に舌が這い、唇がなぞって吸い付いた。
チリチリとそこが痛み、すぐに目元にキスが降る。
蘭が離れると、頭を撫でられた。
「さて、こんなもんかね。また遊ぼーぜー。んじゃ、学校でなー」
何事もなかったみたいに、軽く手を振って蘭は去って行った。
何がしたかったのか、全く意味が分からないままに色んな事が起こった。
蘭の去った方向を見ていた私の手首が、掴まれる。
「びっ、びっくりした……獅音?」
「アイツと、付き合うのか?」
振り返ると、髪を下ろした状態の獅音が私を見下ろしている。何処か不機嫌というか、不安を貼り付けたみたいな顔だ。
「急に、どうしたの? アイツって?」
「灰谷蘭……だよ……さっき、その……」
「み、見てたのっ!?」
私が言うと、強い力で手を引かれた。
「ちょっ、獅音っ!? ねぇ、どうしたのっ!?」
私の疑問に獅音は何も言わず、私は手を引かれるがまま、獅音の家に連れ込まれてしまった。
何とか靴は脱げたものの、揃える間もなく階段を上がる。
何度も来ている獅音の部屋が、少し違う場所に見えた気がした。
扉に鍵が掛かり、ベッドに押し倒される体勢になるけど、やっぱり獅音の勢いは何処か優しくて、両手首を押さえつけられているのに痛みはなくて。
「獅音……家族はこんな事、しないんだよ?」
半分皮肉を含めて言うと、獅音は少し赤くなって、でも私を組み敷いたまま退いてくれる様子はない。
「ねぇ、獅音……これ、どういう状況?」
「つ、付き合うのかって、聞いてんだよっ……」
「……付き合ったら、どうだって言うの? それ、獅音に言わなきゃダメ? 家族だからって、報告する必要ある?」
先に家族だと線を引いたのは獅音なのに、何で獅音がそんな泣きそうな顔をするんだろう。
これじゃまるで、私が悪いみたいじゃないか。
そんな顔も、可愛いと思ってしまう自分を殴りたい。
「獅音。獅音は一体私に何を求めてるの? 」
この質問は、ある意味賭けと、少しの期待だ。
獅音は、口を開けては閉じを繰り返す。