第2章 First dreamers
帆船の帆には二種類ある。
追い風を捉えやすく、季節風を利用して長距離移動のしやすい『横帆』。船首から見て横になっているのがそうだ。船の中心線を通る『縦帆』は追い風の利用効率は低いが、前方から吹く風を利用しやすく操舵しやすい利点がある。
「もしかして龍黎丸もあの伝説のレースの船を模したか?上位五船がほぼ互角の速力で競い合ったんだろう。特に『ティーピン』か『エアリエル』の競走は凄まじかったから、どっちかか」
は全ての帆を張り終えて、下から見上げた。はためく帆を見るのは中々に爽快だ。
「その通りだ、。貴様は何方が好みか?」
操舵室に行き、システム面を確認する。GPSは無い。これは海図や六分儀とかの航海計器で何とかするやつだな、とは苦笑し操舵席へ移動する。龍水に手本を見せる様に明石の海をがぐるりと操舵した。
「ティーピンだな、私なら。だが龍水君ならエアリエルだろう?」
上位二隻のデッドヒートは有名だ。先にロンドンに到着したのはエアリエル。しかし帆船は風の無い河川では動けないので、ロンドン河口からゴールのドッグまで牽引用の船に引っ張って貰わないといけない。十分差で先に着いたエアリエルはそこで手間取り、先に『ティーピン』がゴール。ティーピンの船長が栄誉は独占出来ないとして全ての賞金をエアリエルと折半したのだ。軽く手慣らしに帆船を操縦するの舵取りを見つつ、龍水が頷く。
「貴様の言う通りだ。ティーピンの名誉をわかつ精神も良いが、俺は一番が良い。船体デザインもエアリエルをイメージしたぞ!!スエズ運河の開通で廃れたのが残念だがな」
ルール上の一位でありつつも賞金を分け合うティーピンも、実質一位のエアリエルも素晴らしい。が、龍水なら速さ重視だろうとは読んだ。
「スエズ運河は蒸気船だけ通れるんだっけ?」
「帆船はアフリカの喜望峰周りだったからな。長期航海では燃料補給で不利だった蒸気船と立場が逆転するのも自然の流れだ」
実に惜しい、と言いつつ操舵手のを支える航海士として作業する龍水。明石港付近を一周して元の位置へ。ドッグ内に入る。穏やかに会話していたが、ふと龍水が、ん?と操舵室の入口を振り返った。何事かとも振り返ると。