第1章 我が先達の航海士
着々と進む造船を眺めながら、龍水はの事を考えた。フランソワを介して携帯の連絡先を交換。船が完成する頃には航海から戻ってくるらしい。家には、堂々と『をこの帆船で航海に連れて行きたい』と言った。の家は、良くも悪くも利他主義だ。
龍水の希望も出来るだけ叶えたいが、は曲がりなりにもご令嬢であり、一家の事業を担う仕事人である。有能な彼女を喪う事で自分達だけでなく、他者に発生する損失もある。そこですんなり頷く訳には行かない、と上層部で結論付けた。給料はきっちり出せ、等と条件を付けたが龍水は『なんだこの程度か』と軽やかにオールクリアしてきた。
その中の最後の項目に、【お嬢様との婚約】があったのだが。一家の大事な娘を預かり航海するなら、これくらいの覚悟は。と家なりの抵抗で出した条件がアッサリ呑まれてしまった。これには家上層部が震え上がった。七海財閥は海運業の王様、権力の塊だ。自分達とは比べ物にならない。これは無理だろう、と思って出したら通ってしまったのだ。
まあ、はそもそも『航海に行ってきます』とだけ家出の様に書き残して幼少期から船を乗り回す所があった。自由と個性重視の家ですら手に余り、跡継ぎは兄で決定してるので放置だったが。『この際もういいか』と棚ぼたの気持ちで上層部は諦めた。
完成した帆船を見て、はっはーーー!と龍水がハイテンションで叫ぶ。
「竣工式を行おう。ところでは!?は何処だ!」
えーっと、と戸惑う船大工達。ピロンと龍水のスマホが鳴った。LINEだ。
「《後ろを見ろ》?」
龍水が慌ててメッセージ通りに振り返ると。