第13章 一日奥方2 【三成】
ひりひりする‥‥。
背中を流してやると仰った政宗殿。
力いっぱいガシガシこすると、仕事があるとあっという間に去ってしまわれた‥‥。
「お帰りなさい」
部屋の中には名無し様。
まだいて下さったのですね。
嬉しくて思わず顔がほころんだ。
「ただいま戻りました」
「まだ髪が濡れてる」
部屋に入ると、私を座らせ名無し様が手拭いで髪を拭いてくれた。
ふわりと良い香りが立ち上り、緊張のあまり不自然に固まる私。
名無し様は手拭いで丁寧に髪の水気を取ってから、櫛ですいてくれる。
優しい‥‥。
気持ちいい‥‥。
次第に私は身を任せ、目を閉じてされるがままになった。
髪が整ったら、名無し様が選んだ着物を着せかけてくれた。
ふと彼女の手が私の体に触れ、思わずびくりと肩をすくめてしまう。
「どうしたの?」
「いえ、何も‥‥」
少々苦労されたご様子でしたが、
「できた!」
緩みなく綺麗に締めてくれた私の帯を、満足気にぽんぽんと軽く叩いた。
その着物は、普段の私が選ばない色、柄のもの。
「このような着物は慣れなくて‥‥何だか恥ずかしいですね‥‥」
名無し様は少し下がって、じっと私の姿を見つめる。
「よく似合ってる。いつももっとお洒落したらいいのに」
「興味がないのです」
「勿体ないなぁ。さ、行きましょう」
「どこへ?」
「庭の散歩」
「嫌です…!」
頭を横に振る私。
誰にも会いたくない。
家臣たちに顔向けできない。
戦略が裏目に出て攻め込まれ、対応策も尽き…頭が真っ白になった。
あの時何もできなかった私の両手。
広げてみると小刻みに震えていた。
「大丈夫ですよ。さあ、一緒に行きましょう」
名無し様は優しくそう言い、襖を開け放った。
そのまま、私は襖の外へといざなわれた。