第11章 恋慕3−2 花の裁き ヤンデレEND【家康】R18
半月が過ぎ…
名無しが感染病から回復した、
その知らせに安土城の武将たちは安堵した。
隔離されていた地下牢を出てからも、しばらくは家康が自分の御殿で様子を見ていたが、容態が落ち着いて今日は安土城に来る事になっていた。
家康と共に、先ずは信長の待つ天主に向かう。
「ここに信長さまがいるんだよね。どうしよう…怖い…」
名無しはかなり緊張している様子。
「大丈夫だから」
そう言った家康も、本当は怖かった。
「失礼いたします」
(このお方が…)
信長を前にして、その圧倒的な存在感に名無しは深く畏怖してしまう。
「……」
心配をかけた事をまずは謝ろうとしたが、立ちつくしたまま体が動かず、声も出ない。
見かねた家康が両肩を包んで優しく押し、その場に座らせる。
「…あ…」
ようやく出た声は掠れて、それ以上は続けられない。
「…良い」
信長の一言に、名無しは少し安堵を覚えた。
(あ…この感覚…以前にもあった…?)
「痩せたな。だが顔色は良い」
「はい。一時は危険な状態でしたが、だいぶ回復しました」
家康が答える。
「本当に、何も覚えていないのか?」
名無しはコクンと頷くのが精一杯。
白い花は辛い記憶を消すというが、名無しは記憶の大部分を失っていた。
自分が何者かも、身近な武将たちのこともわからない。
根幹から忘れなければ、根の深い懸念や苦しみを排除できなかったようだ。
当然、不安に陥ったが、常に側にいる家康の存在に大きく救われていた。
記憶を無くす前は恋仲だったと家康は言うが、
(こんなに完璧な人がなぜ私なんかと…?)
と、不思議に思いつつも、家康の姿を見ても声を聞いても胸がドキドキするし、一緒にいられるのがたまらなく嬉しくて、名無しはその言葉を疑うことはなかった。
「病気の後遺症で記憶を失ったようです」
口を挟んだ家康に、信長はその場を外すよう命じた。
一礼し、離れる家康の背中に名無しは不安そうな視線を投げかける。
パタンと襖が閉まる音が響くと、信長は立ち上がり名無しの方へ歩み寄った。
俯いて、床についた指先まで震えている名無しの髪を、大きな手で撫でていく。
「…!」
思いもよらなかった信長の行動。