第11章 恋慕3−2 花の裁き ヤンデレEND【家康】R18
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『昔から、この花を口にすると嫌な事を忘れられるって言い伝えがあって、実行する者が後を絶たない』
『この綺麗な花が…』
白い花と調合された薬を、名無しは興味津津に見つめる。
『戦や、壮絶な目に遭って病んでしまった心の回復が期待できる。だけど、薬の形にはしてみたものの、副作用がひどくてまだ実用できていない』
『どんな?』
『頭が割れそうな痛みと高熱で猛烈に苦しむ。そこから回復すれば効果が得られるけど、半数は命を落とす』
『半数も…怖いね』
『今までずっと調査してきてるけど、回復と死亡の因果関係がわからない。回復した人の性別も年齢も、健康状態もバラバラ。だから言い伝えでは、神の裁きを受けて赦された者だけが苦しみの記憶を消してもらえて楽になれる、赦されない者は命を奪われるって言われてた』
『…神の裁き…』
『まあ、それは信じないけど。因果関係を見つけるか、他の生薬との組み合わせで副作用を抑えられるか。まだまだ実用は難しいね』
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「もし赦されたなら、どうか私とずっと一緒にいて…」
「…絶対に死なせないし」
先ほど聞いたのと同じ家康の言葉。
「家康らしいね」
名無しは微笑んで目を閉じた。
それから彼女は何日も高熱に苦しんだ。
昼夜問わずつきっきりで家康は看病する。
果たして助かるのだろうか。
何より大事な存在を失う恐怖に押し潰されそうになる。
もしも彼女を失ったら、この世に生きていく意味は無い。
そして、ある罪悪感に苛まれ続けていた。
こうなる事をわかっていながら、他の薬と共にあの薬を棚に置いていた、そんな気がする。
思うように懐柔できないまま弱っていく彼女を牢から連れ出して、あの花野に着いたのも。
偶然ではなく、必然だった気がしてきた。
自分が誘導して名無しをこの状況に陥らせた、そう感じて苦しんでいた。
「ごめん、名無し。俺はずっとずっと、卑怯だ…」
彼女を失えば自分も死ぬ。
家康もまた、裁きを受けていた。