第11章 恋慕3−2 花の裁き ヤンデレEND【家康】R18
何か適切な処置を…
そう思うのに、まるで脳に鉄の棒を突っ込まれてかき混ぜられたように思考がぐちゃぐちゃで、何も思い浮かばない。
監禁から、この牢から開放しなければ、彼女は死んでしまう。
なぜかそう感じてひたすら走った。
やがて、
「家康…」
名無しの唇から漏れた自分の名を呼ぶ声に、家康は馬をとめた。
少しだけ安堵する。
「…ああ…」
見渡してみると、そこは白い花野。
名無しが好みそうな美しい場所。
馬から降りて彼女を抱きしめ、その命を確かめながら座り続けていると、彼女は目を覚ましたのだった。
「良かった、目を覚まして…」
「…」
花野を見守るように悠然と照らす赤い月を見上げ、名無しはハッとした。
「信長さまは?」
「昨日から遠出中でしばらくは戻らない」
「牢の鍵は開いていた?」
「いや、閉まってた」
(それなら、牢に来た信長さまは…)
「……夢…?」
すべて理解った上で不問にすると温情をかけてくれた。
家康を選び、牢から出るのを拒んだ名無しの自害を止め、貴様が選んだのならば良いと言ってくれた。
あの全知の包容力も…
海容の眼差しも笑みも…
「…なんて都合のいい夢…」
名無しの唇から乾いた嗤いが漏れる。
「…名無し…?」
「ねえ、この夜に咲く白い花って…」
「ああ、前に教えたね」
一面に咲く花は生薬として家康が研究しているもの。
以前に薬学指南で学んだことがあった。
「家康…私…あなたが好き」
「…」
『あなたが好き!!』
以前に自白剤を飲ませて心を暴いた時に、無理矢理引き出した言葉と同じ。
(…俺はずっと、名無しから言って欲しくて…)
無理矢理言わせるのではなく、自然な形で言って欲しかった。
名無しの心から溢れる想いとして。
「…くっ…」
ようやく聞けた言葉は、甘くて、だけど苦しくて…。
泣き出しそうになりながら、家康は名無しを抱く手に力を込めた。
「ずっと言えなかった。助けたとはいえ偶然なのに、信長さまは私がここで生きられるように守ってくれて、真摯に想ってくれた。私も、精一杯愛してお返ししたかったの。それに、家康と信長さまの関係が壊れるのも嫌だった」