第11章 恋慕3−2 花の裁き ヤンデレEND【家康】R18
次に名無しが目を開けると辺りは夜、そして屋外。
そこに広がっていたのは一面に点在する白い灯りだった。
初めはぼんやりと霞んで見えたが、次第に輪郭がはっきりしてくる。
灯りだと思っていたのは、夜に映える純白の花。
肉厚で艶のある葉の上で舞うようにひらひら波打つ5枚の花弁、その真ん中には黄色い雄しべが鮮やかな色を添える。
風が優しく吹いていき、まるで上品で魅惑的な花姿を愛しみ撫でていくようで、それに乗ってふわりと甘い芳香が運ばれてきた。
(なんて静かで美しい景色…)
先程まで牢にいたのに、なぜこんな場所にいるのか。
この世ではないのかもしれない。
(私は望み通り、信長さまに斬られた…?)
「…私、死んだ?」
「死んでない。絶対死なせないし」
その声でようやく、名無しは後ろから家康に抱きしめられているのに気づいた。
背中から温もりが伝わってくる。
『死んでない。絶対死なせないし』
聞いたばかりの声を頭の中で繰り返してみる。
不機嫌そうな口調が天邪鬼な家康らしくて、
「っ…うふふっ…」
名無しは思わず笑った。
「何?何で笑ってんの?」
「ううん、何でもない」
「…名無しが床に倒れてるのを見たとき、死んでるのかと思って俺の心臓も止まりそうだった…。なのに…起きたらいきなり笑うって何なの」
名無しが笑って、こんな空気感で話すのは久しぶりだと家康は思った。
それは心地よいものなのに自分の手で壊した。
(俺は…何をしてる…?)
真っ青な顔色、裸足で床に倒れていた名無しは、ただならぬ様子に見えた。
自分なら彼女の身体の状態を管理できるし、閉じこめておけば懐柔できるなんて驕りは崩れていった。
彼女を命の危険にさらしている。
一気に苛まれたのは何より愛しい存在を失う恐怖。
それは震える手で呼吸や脈を確かめても、まだ拭えなかった。
抱きしめても、必死に名前を呼んでも全く目覚めず、いてもたってもいられなくて彼女を牢から連れ出した。
見張りの家臣たちが何か言っていたのも耳に入らず、馬に乗せてあてもなく走る。