第11章 恋慕3−2 花の裁き ヤンデレEND【家康】R18
「…家康は?…」
信長がここへ来たと言うことは、嘘がばれて、既に家康は糾弾されているのか。
心臓をギュッと掴まれたような心地で信長を見上げた。
「案ずるな。貴様が望めば不問にしても良い」
「本当…ですか…?」
「ああ。すべて元に戻る、それで良いな?」
「元に…戻る…」
思いがけなく2人にかけられたのは、この上ない温情。
それなのに名無しは目の前の手を取れないでいた。
家康と離れる。
家康への思いを抱えながら信長の側に居続ける。
もう、それはできない。
もう、元には戻れない。
「こんなにも…寛容なお心遣いをいただいたのに…」
名無しは信長の足先から上へと縋るように手繰っていき、脇差の柄に手をかけた。
「何をする」
「もう、元には戻れません!私はここを出られない。信長さまのお心に背く私を、どうかお斬りください」
脇差を抜いた名無しは、ギラリと光る刃を自らに向けた。
「ならぬ」
あっという間に信長の手で刀を取り上げられ、名無しは床に崩れ倒れた。
「元には戻れないと言うか。貴様がそこまでの覚悟で選んだのならば、それでも良い。ただ命を落とすのは許さぬ」
そう言いながら屈み込んで名無しと目線を合わせた信長。
その眼差しにも、形の良い唇に薄く浮かぶ笑みにも深い海容があった。
「どこにいても、貴様がこの世にいる限り、俺に幸運を呼び込む存在なのは何ら変わりはない」
「信長さま…」
熱い涙が溢れていく。
「お許しを…」
そのまま涙を零し続けた。
そのうちに再び眠ってしまったのか。
鉄格子の扉が開く音がして、名無しは誰かに抱きかかえられた。
信長さま?
ここを出られないと言ったのに、一体どこに連れて行かれるのか?
抵抗しようとしても、声は出ず、手足には全く力が入らなかった。
何もできないまま運ばれていった。