第9章 恋慕2 暴かれた心【家康】
「寝ても覚めても、ずっと名無しの事を考えてる。こんな風に誰かを思うのは、生まれて初めてだ」
いつもと違う余裕のない口調に上ずった声。
「最初は変な子だとしか思わなかった。能天気だし、間抜けだし、それで周りを巻き込んで、迷惑の宝物殿みたい」
「ひどい…」
名無しがふっと笑った。
「一生懸命と、真面目だけが取り柄のバカ正直。自分を省みないで人を助けようとするから、危なっかしくて」
「家康に助けてもらった事も、あったね」
「…ほんっと困る。なのに迷惑かけられても嫌じゃなかった。何しても可愛くて、それでいて時々すごく綺麗だし、一体何なの。目が離せない」
「…ありがとう」
家康らしい告白に、名無しのまだ涙で濡れた顔にふんわりと笑顔が浮かぶ。
「嬉しい…」
家康の胸に預けられる柔らかい名無しの身体の重み。
物理的な隙間ができないくらいにぴったり抱きしめていると、着物ごしに肌へ伝わるのは体温だけでは無い気がした。
(…ああ…こんなにも満たされるのか…)
気持ちが通い合ったのを実感し、心の隙間が埋まっていく。
家康は今までにない心地良い感覚を噛み締めていた。
もう名無しの呼吸はすっかり落ち着いたのでホッとしたが、相当思い悩ませてしまったのが申し訳無くてたまらなかった。
「名無し、好きだ…本当に…」
愛おしさが溢れ、耳元で囁くと名無しは家康の頬に自分の頬をすり寄せた。
そのままずっと静かに抱き合っていると、名無しは次第にうとうとし始めた。
優しく抱き上げ褥に寝かしつけると、
「ごめん、眠くなっちゃった‥‥」
名無しは弱々しく言った。
「いいよ寝てて」
家康は一つ問いかけてみたい事があった。
以前から気になっていた事。
自白剤が効いてる今なら正直に答えてくれるだろう。