第9章 恋慕2 暴かれた心【家康】
「信長さまに‥‥‥‥抱かれた事ある‥‥?」
名無しはそっと頷いた。
「昨日の夜も?」
同じように彼女がそっと頷くと、家康の胸の奥がどくっと嫌な音を立てる。
当たり前の事だけど、いざ聞くと大きな嫉妬にさいなまれてしまう。
気持ちが通じ合った今は、その分さらに苦しくなっているのだろう。
自分以外の誰にも触れさせたくない。
彼女の心も身体も自分だけのものにしたい。
既に眠っている名無しをすぐに抱いてしまいたい、とまで思った。
こないだよりももっと自分に溺れさせたかった。
さすがに自分のせいで憔悴している彼女にそれは出来ないけれど。
『名無しが体調を崩したので診察をした。今は落ち着いて眠っているので、このまま朝まで休ませる』
という内容で信長の元へ使いを送った。
しばらくすると気配を感じた。
(……御館様‥‥?)
足音が近づき確信する。
まさか直々にここへ来るなんて。
(抱かなくて良かった。いや、抱いてたらどうなってたかな)
襖が開き信長が入ってくる。
「家康、世話をかけたな」
「いえ、仕事なので」
「名無しの体調は?」
「疲れでしょう。心配ありません」
「連れて帰る」
「あ…」
信長はまるで奪うような勢いで名無しを抱え上げた。
名無しは深く眠っていて全く目を覚まさず、力無く垂れ下がった腕や髪が揺れ、抱えられてる姿は人形のよう。
あっという間に連れ去られてしまった。
家康はぎゅっと固く拳を握りしめる。
せっかく満たされた心は黒い嫉妬の炎にジリジリと焦がされていく気がした。