第9章 恋慕2 暴かれた心【家康】
「名無しが俺を好きでいてくれるなら、いつまでだって待てる。薬学指南か…それと…そうだ、二人だけの秘密の場所を作ろう、そこで会えたらそれだけでいい」
ずっと名無しは何も言わず、ただ俯いていた。
更に家康は言葉を続ける。
「……今はそんなつもりないけど、下剋上だって無いとは限らない。俺も、他の奴らも‥‥」
名無しを手にいれる為ならそんな行動も起こしてしまう可能性も無いとはいえないこと、
それに絶対的存在である信長に負けたくない、
そんな思いもあり下剋上だなんて言ってしまった。
家康にとっては決して本気では無い言葉だったが、それは名無しをますます動揺させた。
「やめて!!今、こんな事を話しているのを聞かれたら!!‥」
名無しはひどく取り乱して大きく首を横に振る。
「大丈夫。誰かがいれば俺は必ず気配でわかる。だから、安心して」
(自白剤‥‥効きすぎたか)
家康は胸に名無しの頭を引き寄せ、守るように両手で包むが、彼女は身を捩らせて逃れ、背を向けた。
「それに…家康は‥‥どうしてあんなことしたの‥‥?」
それは悲しく苦しそうな声だった。
「え‥‥」
「なぜ‥‥私の事‥‥抱いたの?」
「‥‥」
「ただ、体が欲しかったの…?」
名無しが思い悩んでいたのは信長の事だけでは無い。
家康が自分を抱いたのは、ただ欲望をぶつけられただけだったのか。
(それなら悲しすぎる)
「‥‥…あー‥‥もう‥‥」
(俺は馬鹿だ……それで名無しが苦しんでたのを気付かないなんて、ずっと自分の事しか考えてなかった…)
誰でもいい訳じゃない。
名無しにしか欲情しないし、彼女が好きすぎて彼女を求める心の延長、暴走だった。
だけどそんな前提、何も言わずに伝わる筈がない。
確かにあの夜、名無しの事が頭から離れない、と言ったけど、好きだと言えていない。
家康は名無しの肩を掴んで振り向かせる。
「ごめん‥‥本当に悪かった。きちんと思いを伝える前にあんな強引な事して。あんたが戸惑って傷つくの当然だ」
真っ直ぐに目を見て家康は言った。
「俺は名無しが好きだ」
名無しははっと息を呑む。