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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第36章 白い夢 第一夜 【帰蝶】


「……そうか。じゃあ、落ち着いたら送ってやろう」

相変わらず感情の読み取りにくい表情と声だが、心配し気遣ってくれているのがわかる。

(優しい…)

その優しさに甘えていいのだろうか。

求めているのは、あまりにも恥ずかしくて、不躾で、はしたないこと。

だけど、彼じゃなければ嫌だ。

思い切って口を開く。

「あ…あの……私…帰蝶さんにお願いがあって来ました…」

「何だ?添えるかはわからないが、まずは聞こう」

彼らしい生真面目で誠実な返しに、羞恥心がさらに増していく。

(こんな人に…抱いてほしいだなんて…言えない!!)

顔を真っ赤にする名無しを、帰蝶はしばらく静かに観察していた。

「言い辛そうだな。場所を変えた方がいいか?」

「はい…」

「では行こう。立てるか?」

「大丈夫です…」

名無しは白い外套をひらめかせて雑踏を進む背中についていった。





着いたのは帰蝶が館長をつとめる異国商館。

和と洋が融合した立派な屋敷で、名無しは一度ここに来たことがあった。

それはちょうど1年前

帰蝶に命を救われた時……


――――――――――


その日も名無しは海を眺めていた。

城で暮らす姫には当てはまらない表現ではあるが、家出という状況。

逃げ出したくなるほどの不満があったわけではない。

というより、その頃の名無しの心は死んだような状態で、日々の事柄に何の感情も湧かないまま、ただ全てを丸呑みしている感じだった。

常に喉がつかえているように息苦しい。

気づいたらなぜか港に来ていて、いつしかキラキラ光る水面へと体を投げ出していた。

叩きつけられるような着水時の衝撃で、ようやく我に返る。

水中に落ち、漏れた叫びとともに吐き出してしまった空気がぶくぶくと大きな泡になって逃げていく。

慌てて両手を上にあげて浮上するも一瞬で、引きずり込まれたように再び沈んだ。

必死に藻掻いても、重くて沈んでいく体をどうしようもできない。


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