第34章 天女のノート ーお狐さまと未来から来た天然姫ー 【光秀】
夕焼けに染まる町をぬけ、城へ向かって歩いていた。
隣には光秀さん。
ああ…
タイムスリップについて話しちゃったのはやっぱり良くなかったかな。
他言はしないと言ってたけど、信じていいのかな。
結局、ノートを返してもらえなかったし、佐助くんに申し訳ない。
その時、さあっと吹き抜けた夕暮れの風。
光秀さんの長めの前髪がさらりとなびく。
何て綺麗なんだろう…
思わず目を奪われていると香の匂いも流れてきて、それを嗅ぐと素性を明かすよう至近距離で迫られたり、なぜか優しく触れられた時のドキドキ感がよみがえってしまう。
ドクン…ドクン…
勝手に高鳴る鼓動に戸惑っていたら、光秀さんがぴたりと立ち止まった。
「お迎えが来たようだな」
「?」
意味がわからないでいると、やがてザザザザッと高速の足音が近づいてきて、
「下がれ」
光秀さんの背中に隠された。
まさか、また私を狙う敵があらわれた?
でも、お迎えって?
光秀さんは速やかに抜刀し、飛び上がって斬りかかってくる襲撃者の重い一太刀を受け止めた。
ガキンッッッッ!!!!
大きな金属音が響き、私はすくみあがる。
強者の光秀さんがただちに抜刀したということは、かなり手強い相手のはず…!
…って…
それは…
「幸村!!」
光秀さんに対峙している襲撃者の姿を見て、私は思わず声を上げていた。
「そうか。直接お目にかかるのは初めてだな、真田幸村殿。武田信玄公の忠臣である貴殿にお会いできて光栄だが、随分と手荒いご挨拶で」
飄々と言う光秀さんに、
「名無しから離れろ!!」
幸村は険しい顔で怒鳴るように言い放つ。
今まで見たことがないくらいに感情を昂ぶらせていて、
その殺気、今にも斬りかかりそうな勢いに、私はあたふたした。
敵同士だから当然だけど、幸村と光秀さんが戦うこと、それによって2人が傷ついてしまうことが心の底から嫌で、何とか止めたかった。
「ねえ待って、幸村、お願い」
必死に懇願する私の様子を光秀さんはチラリとうかがうと、
「どうか穏便に、幸村殿。暴力を嫌う姫がこんなにも困っている。まずは話そう」
冷静な声で言った。