第34章 天女のノート ーお狐さまと未来から来た天然姫ー 【光秀】
「それより、そろそろ城に帰った方がいいんじゃないか?」
「あ!確かに!遅くなると心配かけちゃう…」
「送ってやろう。行くぞ」
「でも…大丈夫ですか?敵の城なのに。誰かに見つかったら」
「大丈夫だ。今の俺は織田軍の重臣ではなく、単なるお前の護衛だからな」
「いや、そんなことを言い張っても通用しないと思いますけど…」
蔵を出ると辺りは暗くなっていた。
光秀は帳面を大事に懐にしまいこむ。
(これは、まるで『天女の羽衣』だな)
脳裏に浮かんでいたのは『羽衣伝説』
―――天から降りた天女が羽衣を脱いで水浴びしていると、それを見た人間の若者が羽衣を盗んで隠し、天上に帰れなくなった天女は若者の妻になった―――
古くから言い伝えられる、そんな伝説。
(ずいぶんと間抜けな天女だが)
隣を歩く名無しの顔を見ながら、光秀は和み癒されていく己の心の内を自覚していた。
******彼目線(光秀視点)終了******
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