第34章 天女のノート 【光秀】
「そうじゃない。どこから来た?この俺がどれだけ調べても、お前の出自はわからない。それにお前の言動は違和感だらけだ」
どうしよう…
500年後から来たというのは誰にも言わない方がいいって、佐助くんに言われてる。
困った私がうつむきかけると、すかさず光秀さんの長い指で顎をクイッと上げさせられた。
「間抜けだし、頭の中に花でも咲いてるんじゃないかと思うほど能天気だし、それなのにウロウロするから、危なっかしくて見てられない」
何だかひどい言われようだな…
否定はできないけれど。
「お前は何者だ?秘密を俺に明かせ、ほら…良い子だから…」
色気のにじんだ声で耳元で囁かれると同時に、大きくて冷たい手が私の頬を包み、そのまま優しく撫でられる。
その感触、やたら艶っぽい雰囲気に全身の肌が一気に粟立つ。
ああ、もう耐えられない
鼓動の高鳴りは限界
逃げなきゃ…!
そう思った私は一気にしゃがみこんで、光秀さんの手の檻からすり抜けた。
低い体勢から起き上がりつつ、扉の方へと駆け出す。
ところが、暗さで足元の木材に気づかずに足を引っかけ、バランスを崩した私の体は前へ倒れこむ。
転ぶ!
そう思った瞬間、
後ろから伸ばされた光秀さんの腕が腰に回り、私の上体は力強く支えられた。
「…危なかったな」
また助けてもらっちゃった…
地面には無造作に置かれた鍬(くわ)や鎌などの農具。
さびついた刃がむき出しで、もしあの上に転んでいたらタダじゃ済まなかった…。