第34章 天女のノート 【光秀】
まだ、光秀さんにすっぽりと後ろから抱きしめられているような体勢のまま。
これ、どうしよう…!
顔が上気して、のぼせたように熱くなっていくのを止められない。
「名無し…とてもじゃないが、お前からは目が離せない」
その低音の美声は近いどころではなく、直接脳に響いてくるようだった。
冷たかった手の感触とは違って、背中を包む光秀さんの体はすごく温かい。
………
そのまましばらく動けないでいると、
「…悪かったな、怖がらせて。お前はいじめがいがあるからつい、な」
そう言って光秀さんは私から離れた。
さっきまでとは打って変わって、元の飄々とした雰囲気に戻っている。
何だったんだろう、あの感じは。
光秀さんが何を考えてるのか、本当にわからない。
振り回された私は感情が揺れ動きすぎて、頭がくらくらしてきた。
「全部話してみろ、悪いようにはしない。それに、お前はこれを探しているんだろう?」
「あっ!」
振り返った私の目に飛び込んだのは、光秀さんが得意げに手にしている小さなノート。
これ、佐助くんの!!
思わず手を伸ばすと、すばやくよけた光秀さんは意地悪な微笑を浮かべ、私の手の届かない高さにノートを掲げた。
「やはりな。お前の秘密を正直に言うなら、渡してやらんこともない」
―――観念した私は、
本当は500年後の人間で、突然タイムスリップしたきたこと
信長さまを偶然助けたこと
同じ現代人仲間を頼って春日山城でお世話になっていること
そして、そのノートは500年後に帰るために必要だということを光秀さんに話した。