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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第34章 天女のノート 【光秀】


「――なかなか良いものだな、感謝されるというのは」

旅籠を後にしてから、私の隣を歩く光秀さんはまっすぐ前を見つめたまま、ぽつりと言った。

「はい、良かったです。喜んでもらえて」

「お針子か。いいな、お前の仕事は。俺は恨まれ憎まれ、恐れられることは数あれど、感謝されることはまず無い。まあ、その方が俺の性分には合っているが」

魔王と呼ばれる織田信長の重臣として陰で策動してきたという光秀さん

これまで背負ってきたものはどれだけ壮絶だったんだろう、と勝手に思いを馳せる。

「私は感謝してますよ」

光秀さんの前に回りこんで歩みを止めさせて、

「無事に届けられて、喜んでもらえたのは光秀さんの護衛のおかげです。助けてくれて、お花まで買ってきてくれて、今日は本当にありがとうございました」

素直に感謝を伝えた。

「……」

「それに、織田信長…さまが天下統一を目指しているのは、作りたい理想の世があるんですよね?」

佐助くんに聞いたことがあった。

武将たちにはそれぞれの義があり、そのために命をかけて戦っていると。

信玄さま、幸村は故郷の再興、そしてそこに住む人々の命が脅かされることなく、平和に暮らせるのを目指している。

織田信長にもきっと義があるはず。

「織田信長さまのおかげで、安土は栄えて賑わっている町だって聞きます。その片腕である光秀さんも、直接的ではなくても感謝されていると思いますよ」

光秀さんは少し眉を上げ、私をじっと見つめた。

「…………」

突然降りたのは、張り詰めたような沈黙。

何もわかってないくせに偉そうなことを言ってしまったと、私はすぐに後悔した。

……………

…………………


今日、光秀さんは巧みに私に近づいてきた。

ペースに呑まれて、その裏の思惑を警戒しつつも逃げられなくなってしまった。

でも何だか優しくて、

結果的に助けてもらって、護ってもらって、

それからドキドキさせられて…

警戒心が薄れてしまったどころか

一緒にいる空気が心地よいとさえ感じはじめていた。

だけど、あれだけ雄弁だった光秀さんが、今は言葉も表情も取り繕っていない。

この沈黙が一体何なのかわからず、不安が胸に広がっていく。
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