第34章 天女のノート 【光秀】
私はそれから城下へ向かった。
ちょうど依頼されていた着物の納品と他の用事があるし、佐助くんのノートも探してみよう。
貴重な観測データをなくしてしまったこと、とても悔しそうだったし。
やっぱり明智光秀が持ってるのかな…?
あの後、幸村にどんな人なのか聞いてみた。
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『織田信長の左腕で、かなりの策略家だ。織田軍の脅威的な勢力拡大はあの男の暗躍による所が大きいと言われてる。敵である以上、対峙は免れないけど、できることなら近づきたくねー…。それほどに恐ろしい男だ』
『…どんな風に?』
『目的のためなら手段は選ばない。それがどんだけ非情で残酷な方法でも。捕らえた敵の手先に口を割らせるため、ひどい拷問を加えたっつー話だ。死んだ方がマシなくらい悲惨だったらしい。佐助はどうかしてんだろ、自分から近づくなんて。もし捕まってたら今ごろそんな目に遭ってたかもしれないのに』
『……』
『まさか、佐助が落としたってものを探しに行くつもりか?』
幸村は真剣な表情で私の目をのぞきこんだ。
そのつもりだけど、
『ううん…違うよ。ただ聞いてみただけ』
とっさに否定した。
『とにかくあいつには近づくな。こんな噂だってあるからな。奴は狐の化け物だって…』
『狐?!』
『ああ。ずる賢くて神出鬼没で、まるで化け狐だと』
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私の知ってる歴史では、織田信長を裏切って謀反を起こしたのは明智光秀。
本能寺で織田信長を助けた後に、その張本人とされる彼があらわれて、もの凄くビックリした。
実際、襲ったのは違う人だったけど、実は裏で糸を引いてる首謀者だったりして。
豊臣秀吉も疑ってたし。
味方からしても油断ならない人なんだろうな。
それにしても、化け物とまで言われてるなんて。
……わからなくもない、あの妖しい雰囲気。
確かに近づかない方がいいよね。
ああ、どこかに落ちてないかな、佐助くんのノート。
そんなことをぐるぐると考えながら、城下を歩き回った。