第28章 五色の夜 春日山城編3 【謙信】
軍議終了後、今日はお針子仕事や予定はないので、城下町に反物を見に行くことにした。
昨日の幸村との夜を考えちゃって、ずっと気分が落ち着かない。
大好きな着物作りを考えれば紛らわせられるかも。
だけど、お店で色とりどりの美しい生地を見ても、普段ほど心が弾まなかった。
トボトボ歩く帰り道。
ボケっとして道を間違えたのか、気づいたら雑木林を歩いていた。
一旦引き返そう。
そう思って勢いよく振り返り、走り出したとき、
ドンッ!
誰かとぶつかった。
その反動で跳ね返り、私は地面に叩きつけられるように尻もちをつく。
痛い…
そういえば昨日も幸村とぶつかったけど、肩を掴んで支えてくれたからこうならなかったんだな…。
「すみません!」
「いってーなァ!!コラァ!!」
ぶつかった相手は、巨漢で見るからにガラの悪い男。
私のように倒れてはいないけど、痛がって大声でわめく。
「大丈夫かッ?」
「こりゃ重傷だな!!」
同じようにガラの悪い仲間二人が騒ぎたてる。
「クソッ!腕が動かねえ!骨が折れた!」
私がぶつかった男は片腕をだらりと垂らし、大げさにしゃがみこんだ。
「オイ!お嬢ちゃん、どうしてくれんだよッ」
これはヤバい。私は恐る恐る立ち上がった。
「治療費と、しばらく働けねえ分の生活費、払ってもらおうか」
ああ…どうしよう…折れたなんて嘘だと思うけど…
とりあえず、お金の入った巾着を渡した。
「こんだけか?とてもじゃねーけど足りねぇな」
そのとき蜂が飛んできて、私がぶつかった男の方へ。
ブンブンと飛び回り、男は避けようと体を捩らせるが、ピタッと片腕にとまる。
すると、垂らしていた方の手で追い払った!
「腕…動きましたよね。折れてないんじゃないですか…?」
「アァ?何だとコラ、俺を詐欺師呼ばわりすんのか?」
三人の男は私に詰め寄る。
もっとヤバいことになっちゃった、
どうしよう…どうしよう…
どうにかしなければ、私はどうなるの?
ころされる…?
命の危険に全身からサーッと血の気が引いていき、鼓動が耳元で鳴っているかのように大きく聞こえる。
いやだ…怖い…
私は後ずさりながら、恐怖と焦りの中で必死に頭をめぐらせた。