第28章 五色の夜 春日山城編3 【謙信】
「名無し、どうした?いきなり」
兼続さんの声で、ハッと我に返る。
そうだ、今は軍議中。
神妙な顔で発言する幸村を見てたら、私の脳内で昨日の彼のスライドショーが始まってしまった。
蝋燭の光に照らされ、影が強調されたりりしい顔
謝ってくれた時のシリアスな顔
私がかけた『幸村はそのままがいい』という言葉で浮かんだ太陽のような笑顔
そして、震える手で私に触れた時の顔…
そこまで思い出したら、
うわぁぁぁぁぁ
と、大きく動揺してしまい、無意識にブンブン首を振っていて、兼続さんが声をかけてくれたところ。
「様子がおかしいが、大丈夫か?ついていけてるか?わからない語句でもあったのか?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます…」
今日の軍議、兼続さんは私の隣に座り、ときおり小声で話の内容を解説してくれていた。
おかげで今までよりずっとずっと、理解できる。
フォローアップまでしてくれて何て熱心な講師。
こないだは失礼なことをしちゃったのに。
だから、余計なことばっか考えてないで集中しなきゃ。
幸村の次に発言している謙信さまに視線を移す。
軍神とたたえられるお方。
女嫌いで(怖くて)とても近寄れない。
凛としたお姿を見ているだけで緊張感をもらえるな。
自然と背筋が伸びる。
その時、謙信さまと視線がぶつかった。
左右違う色の瞳でなぜかしばらく見つめられる。
な、何…?
私、やっぱり場違いかな…
緊張感をもらえるどころじゃなくなり、ヘビににらまれたカエルのようにビクビクする。
やがて、フッと視線をそらして謙信さまは話し続けた。
ふう。
ホッとして小さく息をはく。
今日の軍議はとても心臓に悪い。