第27章 五色の夜 春日山城編2 【幸村】R18
「ごめんなさい、私、今日は無理って言ったつもりだったんだけど、伝え方が悪かったんだね。こんな寒い中で待たせちゃって…」
「いや、違う。俺が勝手に待ってただけだ」
幸村は、私の手をぐいっと握って歩き始めた。
「幸村?」
歩幅の大きな幸村に引っ張られ、私は小走りになりながらついていく。
「どこ行くの?」
「俺の部屋」
どうして?
広い背中を見つめても、幸村が何を考えているのかわからない。
繋がれた大きな手は冬のお地蔵さまのように冷たくて、寒い中でずっと待っていてくれたのを感じる。
それが申し訳なく何も言えないまま、とうとう幸村の部屋についてしまった。
手を離し、襖を閉めた幸村はいくつか灯りを点し始めた。
オレンジ色の光に照らされると、部屋の中が少し温かくなったような気がする。
そして、その光に照らされた幸村の顔は、骨格による影が強調され、いつもよりも精悍で男らしく見えた。
「座れよ」
「うん」
………
しばらくの間、沈黙がおりる。
「……朝は悪かった、お前に失礼なこと言って」
その口調も表情も割とシリアスで、こっちが恐縮するくらい。
「全然、気にしてないよ。こちらこそごめんなさい。無神経とか配慮ないとか言って」
「いや、お前が謝ることねーよ」
「綺麗な着物をきせてもらって、姫にみえるかも、なーんて勘違いしちゃってたから、ついムキになって言っちゃった。イノシシの方が近いのにね」
もう気にしないでほしくって、
この空気を変えたくて、
私は笑って言ったけど、幸村の雰囲気は変わらない。
「あー、傷つけたよな。ダメだな、俺」
幸村は首を横に振ってから近づき、朝と同じように両肩を掴んで私の目をじっと見つめた。
「…あ…あの」
この距離で、そんなに見られるとドキドキするんだけど…
「女の着物とか化粧とか良くわかんねーけど、お前が何かいつもと違って、それ見たらつい余計なこと言っちまった。一瞬だけ、悲しそうな顔してただろ?」
してたかな?
「ううん…全然気にしてないからね」
この状況、戸惑う。どうしたらいいの?
「いつもお前は…かっ…かわっ…」
……変わってる?
「可愛いけど…今日は綺麗だったから」
「え…」
まさか幸村にそんなことを言われるなんて。
私の頬は一気にかあっと熱くなる。