第27章 五色の夜 春日山城編2 【幸村】R18
幸村はまだ肩を掴んだまま、しばらくじっと私を見つめた。
「………お、今日はずいぶんチャラチャラ着飾ってんな。イノシシ祭りでもあんのか?」
イノシシ祭り…
姫になれたつもりがイノシシって言われた…
せっかく綺麗にしてもらって上がってたテンションが一気にダウン。
まあそうだよね。それが現実。
だからって、そんなからかわなくても。
もーやだ。
幸村って小学生男子みたい。
「何それひどい。幸村ってほんとデリカシーない」
「でり、菓子?何だそれ?」
「無神経で失礼で、配慮がないってことだよ」
「お前こそ失礼だろ、それ」
「あ、そういえば急いでるから行くね」
「名無し!あ…あの…今夜…空いてるか?」
え?夜?
「何か用事でもあるの?」
「え…用事っていうか…その…」
…………
これってまさか、夜のお誘いというもの?
でも、さっきまでイノシシとか言ってて、それはありえないよね。
よくわからないけど今は時間ないし、とりあえず断ろう。
「今日は遠くまで出かけるから、何時に帰れるかわからないの。だからごめん。じゃあね」
私はそう言って、幸村に背を向けて走った。
出発時間には何とか間に合った。
信玄さまに着物のお礼を言うと、似合ってるとたくさん褒めてくれ、単純な私のテンションは無事に回復。
訪問先の大名は目利きで有名な方で、美術品をたくさん収集している。
笑顔で私たちをもてなしてくれ、貴重なコレクションを惜しげもなく見せてくれた。
この時代の美術品の完全な姿をこの目で見て、文化を堪能できるなんて、私、贅沢な経験してる。
しかも信玄さまと義元さんの的確な解説つきで。
楽しい時間を過ごし、春日山城に帰ったのはかなり遅い時間だった。
昼間は春の兆しを感じるあたたかな陽気だったのに、一転して冬が戻ったように寒い夜。
「寒いー」
私は両手をすり合わせて温める。
一昨日の強風でなぎ倒された木は、いつの間に片付けられていた。
ぽっかり空いたその場所を見ながら廊下を進んでいくと、私の部屋の前に誰かが立っていた。
それは幸村。
「おー」
「どうしたの?」
「待ってた」
え?
私、断ったつもりだったけど伝わってなかったのかも。