第27章 五色の夜 春日山城編2 【幸村】R18
翌朝、綺麗に着飾った私はバタバタと廊下を走っていた。
昨夜は佐助くんの話に衝撃を受けてしまい、私には関係ないと思いつつも頭から離れず、寝つくのがかなり遅くなってしまった。
「名無しさま、起きてください。出発のお時間が近づいておりますので」
廊下から呼びかける女中さんの困ったような声で飛び起きる。
ヤバい!寝坊した。
今日は信玄さまと義元さんと、ある大名の城を訪問する日。
出発時間が早いんだった。
「はいっ!すみません!」
部屋に入った女中さんは、謝る私に笑顔を見せ、手に持っていた着物を広げた。
「今日のお召し物です。名無しさまのために信玄さまが見立ててくださったものですよ」
「わあ…」
それは小花柄の美しい着物だった。
清楚だけど華やかで…なんて綺麗なの。
女中さんは着付けをしてくれて、私の髪を整え繊細な飾りのついた簪をさしてくれた。
さらに化粧もしてくれた。
その魔法のような手際の良さ。
寝起きのひどい状態だった鏡の中の私が、みるみるうちに作りこまれていく。
「終わりました。とてもよくお似合いですよ」
「どうもありがとうございました。すごく綺麗にしていただいて」
こんなにも素敵な衣装を着て、髪も顔も整えてもらって…
庶民の私でも姫に見えるかな、なんて、それは無理か。
でも、朝から感動…
どの時代でも、やっぱりお洒落って素晴らしい。
私もデザイナーとして、皆に笑顔になってもらえる服を作りたい。
そんな思いに浸っていると、
「さあ、名無しさま、皆さまがお待ちです。どうかお急ぎください」
女中さんの声で我に返った。
そう、急がなきゃ。
廊下を走って角を曲がったとき、向こう側から来た誰かとぶつかった。
「…うわっ!!」
その相手は幸村。
ぶつかった反動でバランスを崩し、後ろに倒れかけた私の肩を掴んで引き戻してくれる。
「ごめんなさいっ!」
「危ねーだろ、そんな勢いで走ったら。ここに貼り紙でもしとくか、『イノシシ飛び出し注意』って」
「イノシシって、私?」
「他にいねーだろ」
「ひどっ」
そういえば前にも言われたな、イノシシ女って。