第26章 五色の夜 春日山城編1 【兼続】
その夜、自分の部屋で昨夜教わった内容を振り返る。
なんだか兼続さんのイメージ、変わったな。
クールで厳しいけど、その奥に優しさがある。
まさか、あんなにも私を心配してくれて、親身になってくれるなんて。
教え方はとてもわかり易かった。
おかげで少し理解できるようになったのが嬉しく、本を読み進めていると、
「名無しさん、起きてる?」
天井裏から声がした。
「佐助くん?起きてるよ」
「夜分にごめん、お邪魔していいかな」
「どうぞ」
佐助くんが軽い身のこなしで降りてきた。
「どうして天井裏から忍んで来たの?ここは敵地ではないのに」
「ああ‥‥これから君に伝える内容的に正面から堂々と来る気にはなれなかった‥‥」
「?」
何だろう?
佐助くん、いつものポーカーフェイスだけど少し様子が違う。
「ああ‥‥やっぱり言えない。ごめん名無しさん!これにてドロ…」
「ま、待って!気になるよ」
私は佐助くんの腕を掴んで引き留めた。
「言いづらそうだけど、私のために必要なことなんだよね?」
いつも冷静な佐助くんの様子がおかしい。
きっと相当悪い知らせなんだろう。
現代に戻るすべが無くなった、とか?
「大丈夫。私、覚悟して聞く」
佐助くんは背を向けたままだったので、
「とりあえずこっち向いて」
掴んだ腕を引いて振り向かせた。
「!?」
佐助くん
いつもの無表情なのに
めちゃくちゃ顔が赤い。
「大丈夫?熱でもあるの?」
「いや、平気だ」
佐助くんはすぐにまた背を向けた。
「君の顔を見ては話せない。どうか許して欲しい」
「うん、わかった」
ああ、怖い。
落ち着かなきゃ。
私は深呼吸した。
「どうぞ」
「君は近いうちに」
「近いうちに‥‥?」
「春日山城の武将たちから‥‥」
なに?
追放される?
まさか、死刑にされるとか‥‥?
何か失礼なことをしてしまった?
まさか、兼続さんの指南の途中で寝たから?
許してくれるふりして、実は処刑の準備を進めてるとか?
氷水にドブンと浸けられたように頭が一気に冷たくなった。
心当たりを探して、最近の出来事を脳内で必死にぐるぐると巡らせる。