第26章 五色の夜 春日山城編1 【兼続】
私は床に座り、風呂敷包みから数冊の戦術解説書を取り出して、
「それでは、どうぞよろしくお願いします」
手をついて深々と頭を下げた。
「は?……何だと?」
「この本を理解したいのですが、難しくて一人では無理でした」
「……そのために来たのか?」
兼続さんの目が見開かれ、私と戦術書を交互に見比べている。
あ、そういえば私、何のために時間を割いてもらうのか言ってなかったかも。
「はい、どうか教えてください。軍議で皆さまの話を理解できるようになりたいんです」
「……」
「兼続さんは指折りの軍師で、その上、教えにも長けていると信玄さまに聞きました」
「はぁ…頭痛がする」
兼続さんは目を伏せ、片手を額に当てる。
「大丈夫ですか?今日はやめましょうか」
「なるほど。無知とはいかに恐ろしいものか…」
「ええ、その通りなんです。だから、この乱世で生きるため知識をつけたいんです」
「…名無し…心底お前が心配だ。いいだろう、教えてやる」
「ありがとうございます」
わかってもらえた。
私が笑顔を浮かべると、兼続さんはため息をついた。
「本の選択は悪くないようだが、もっと簡単なものから始めたほうがいいな」
兼続さんとの指南の夜は、めちゃくちゃスパルタだった。
とにかく切れる講師、それに比べてあまりに残念な私の頭。
心が折れそうになると、
「名無し、落ち込む必要はない」
と、慰めてくれたのかと思いきや、
「その時間に意味などないからだ。そんな暇があるなら書に触れろ」
そう言い切られる。
「はい!」
「素直さは評価したいが、ただ単純なだけなのか…」
相変わらず外で激しく吹き荒れる風。
ビュービュー迫りくるような不気味な音が、その場の厳しい雰囲気を盛り上げていた。
どれくらい時間が経ったのか。
「おい…名無し…」
「…はい…」
「起きろ、そろそろ切り上げるか?」
起きろ…って、寝てた?私。ううん、寝てない。
「起きてます…まだ頑張れます…」
そう言って私は書の文字を見つめる。
だけど目がすべって頭に内容が入らない。