第23章 貴女を意のままに2【三成】
「それに…だいぶ体調良くなってきたけど、もっと元気になれるもの、それから旨いものを毎日作って食べさせてやれるからな!」
「……」
こっそり聞いていた三成は大きな衝撃を受け、頭から冷水を浴びせられたように身がすくんだ。
名無しはどう答えるのだろうか。
「でも…そんな美味しいものばっかり食べてたら…私…太っちゃうから」
「いいな、それ。丸々と太らせてやる」
「やだあ、太らせてどうするの?」
「食ってやる」
最後の一言と蒼い瞳は不思議な熱を帯びていて、それにゾクッとした名無しは、大きな両手で頬を包まれ、引き寄せられていった。
目を閉じる政宗。
唇が触れる寸前、
「名無し様。こちらにいらっしゃいましたか」
突然の三成の声に、政宗はパッと名無しから手を離した。
名無しは俯いて、鼓動を押さえるように胸に手を当てる。
「書庫にいらっしゃらなかったので探しました。お館様がお呼びです」
「は…はい…。政宗、手伝ってくれてありがとう。マシュマロも美味しかった」
「あ、ああ…」
「それでは政宗様、失礼します」
三成は穏やかな声で言い、余裕のある笑顔を浮かべてから踵を返す。
名無しもその後を追って行った。
(危なかった…間に合わなければ名無し様は…)
つかつかと歩きながら三成は眉をひそめた。
名無しに口づけようとしていた政宗。
それを止める為にかけた声は自分でも驚くほど穏やかで、沸々と煮えたぎるような胸中とは裏腹に、笑顔まで自然と浮かんだ。
お館様が呼んでいるなんて、咄嗟についた嘘を信じて名無しはついてきている。
城の外れ、人が殆ど通る事の無い場所まで歩き、使われていない部屋の前で三成は足を止めた。
「信長様はここにいるの?」
不思議そうに名無しは尋ねる。
もし、名無しが政宗の提案を受け入れ、彼の元へ行くことなったら…、そう考えると気が狂いそうだった。
(このままでは名無し様が取られる…)
三成の中で理性がガラガラと音を立てて崩れていった。
部屋に入って襖を閉めると、そこには勿論、誰もいない。
「信長様は…?」
怪訝そうに部屋の中を見回していた名無しは、耳元で鳴った鈴の音に思考を奪われた。