第23章 貴女を意のままに2【三成】
翌日、名無しは三成とともに安土城へ出向く。
手を繋いでいたからか、城下町も問題無く通り過ぎる事ができた。
「信長様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
手をついて頭を下げた名無しに信長は深紅の瞳を細め、体調を気遣う言葉をかける。
今後は三成の御殿から安土城へ通い、様子を見ながら少しずつ織田軍世話役としての仕事を再開する事となった。
「三成、名無しは幸運を運ぶ大事な存在。これからも何かと手助けしてやれ」
「はい」
信長の言葉は励みになったが、政宗が来てお手製のずんだ餅を渡したり、武将達が次々とやって来て名無しとの再会を喜び、名無しも笑顔を咲かせている様子を見ると、三成の胸中は複雑だった。
彼女が床に臥せっていた間は心配でたまらなかったけれど、今となっては幸せな時間でもあったと思う。
三成とだけ向き合い、三成に守られなければ生きていけない状況。
(それを望むとは…私は何て身勝手な人間なのか…)
必死に考えを振り払おうとする。
名無しが健やかで幸せに過ごせるのが一番、そう自分に言い聞かせた。
「三成ーっ!!」
戦術書に集中していた三成は、ハッと顔を上げた。
大声で呼びながら駆けて来たのは秀吉。
「来てくれ、名無しが大変なんだ!」
すぐに彼女の元に向かうと、名無しは座り込みブルブルと身体を震わせ、胸を押さえて苦しそうな様子。
付き添っている慶次はオロオロしていた。
「俺と慶次が剣術の稽古をしてた所に名無しが通りがかって、急に苦しみ出したんだ」
三成が想像していた通り、怖い記憶が蘇りそうになり発作が起きたのだろう。
「大丈夫です。私に知らせて下さりありがとうございました」
心配しすぎて自分も辛そうな秀吉にそう言ってから、三成は名無しの横にしゃがみこんで胸に抱きしめた。
「名無し様、もう大丈夫です。すぐ楽になります」
彼女の荒い息がかかって三成の胸元がじんわり熱くなる。
すべてを包み込むように抱きしめ続けていると、すぐに震えは収まり、次第に呼吸も規則正しくなっていった。
秀吉も慶次も驚いて目をみはる。
「収まりましたか?」
三成がポンポンと優しく背中を撫でると、
「ありがとう…」
名無しは頷いた。