第23章 貴女を意のままに2【三成】
「わぁ可愛い」
手に取った名無しは、愛らしい笑顔を浮かべた。
「ありがとう、嬉しい」
「香りはどうですか?」
「好きな香り。凄く落ち着く」
(それなら使える。良かった)
術師に教えられたように、辛い記憶が蘇りそうになった時の為の暗示と、お守りを与えておかなければならない。
香袋はその為に用意したもの。
三成は青い鈴を鳴らした。
フラリと倒れ込んだ名無しの背中を支えて膝の後ろをすくい上げ、横抱きにした。
力の抜けた名無しの手から香袋が転がり落ちる。
数日前、政宗がしていたように三成は彼女を抱え上げていた。
腕や胸に感じる彼女の柔らかさ、すべて委ねられた身体の重み、何とも心地良い。
(この状態の名無し様は私のもの…)
いつものような興奮を覚えるとともに、独占欲が満たされていく。
(私の好きにできる)
さらに政宗への優越感まで覚える。
(だけど…)
彼女の回復の為の術を、自らの欲を満たすのに利用している。
罪悪感を抱き、名無しを抱えたままその場に座り込んだ。
(ああ…暗示をかけなければ…)
そう思って床に落ちた香袋を見つめたけれど目をそらし、名無しをぎゅっと抱きしめた。
耳元で暗示の言葉を囁く。
「名無し様が…もし何かを見聞きして…それをきっかけに辛い事を思い出しそうになったら…」
そこまで言ってから、三成は言葉に詰まる。
しばらく迷い続けた末に与えた暗示は、
「こうして私に抱きしめられると…心地よくて…すぐに気分が落ち着き楽になる。苦しい思いをせずに済む…」
香袋では無く、自分の抱擁で落ち着くというもの。
政宗の接近に焦りを感じ、名無しが三成を頼らざるを得ない状況を作りたかった。
身勝手なのはわかっているけど、そうしない訳にはいかなかった。
香袋を拾い彼女の手に持たせてから目覚めさせる。
「いい香りー」
お守りとしての効力なんて無い、ただの香袋を嬉しそうに手にする名無しに、三成の胸はチクチク痛んだ。