第23章 貴女を意のままに2【三成】
『前よりも軽くなった』と言ってたが、前にもこのような事をしていたのだろうか。
事件以降、名無しは三成以外とは会いたがらなかったが、回復した今後、政宗は積極的に名無しとの距離を縮めようとするだろう。
強くて男らしくさっぱりとした気質、色気があって同性の三成から見ても魅力的な政宗。
名無しも好きになるに違いない。
胸がざわめいていた時、三成の片手がふわっと柔らかく包まれた。
それは名無しの手。
(‥…名無し様は今、不安を感じている…?)
「大丈夫ですか…?」
三成はぎゅっと握り返した。
「はい‥‥」
突然、政宗に抱えられてビックリしてしまったのか。
こうして手を握ることで安心させてあげられているのだろうか。
それにしても、
(…満たされる…)
自分の手を求めてくれたのが、たまらなく嬉しい。
手を握るのは名無しの為の暗示なのに、その行動によって三成自身の心も落ち着いていく。
「そろそろ戻りましょうか」
「はい」
手を繋いだまま、名無しの部屋に帰った。
数日後、名無しの回復を聞いた信長から、安土城へ来るようにとお達しがあった。
あの事件のあった城下町を通らなければならない。
また事件の記憶が蘇り発作が起きないか心配な三成は、
「まだ体調が万全では無いから、とお断りしても良いのでは…」
と促したが、名無しは
「大丈夫。ちゃんと信長様に挨拶しなきゃ。ずっと心配をかけてしまっていて心苦しいから」
そう言って微笑んだ。
「そうですか…」
(乗り気なのは政宗様に会いたいからでは…)
そんな考えがよぎってしまい、自然と三成の声は沈んでしまう。
「あの…三成くん…一緒に来てくれますか?」
「それは、勿論です」
「良かった」
ほっとしたような名無しの様子に、頼りにされているのを感じて嬉しく、やはり力になりたいと思った。
(それなら、これが必要になる)
三成が懐から取り出したのは、小さな香袋。
「これを名無し様に」
華やかな西陣織の金襴地でできていて、コロンと丸く愛らしい形。
香りは以前に名無しが好きだと言っていた伽羅や白檀、金木犀が絶妙に配合されたもの。