第23章 貴女を意のままに2【三成】
暗示は順調に進んでいるが、それにより三成の中で、ある問題が大きくなっていた。
この意識状態に落ちた名無しがあまりに無防備で危うく、それがたまらなく煽情的だという事。
最初に術にかけられてぐったりと男性術師の腕に抱かれていた姿を見た時、心配したのと同時に実は不思議な色香に心が揺さぶられ、それをずっと忘れられずにいた。
鈴を鳴らして彼女が落ちる瞬間、どうしても強い興奮を覚えてしまう。
不謹慎なのは重々承知なのに止められなくて、そんな自分と葛藤し続けていた。
(早く暗示を与えて…目覚めさせなければ…)
やっとの思いで、抱きしめていた彼女から身体を離す。
このままでは自分が何をしてしまうかわからない。
雑念に邪魔され頭が思うように働かず、彼女のための暗示の言葉がなかなか出てこなかった。
「名無し様…」
左手で背中を支えながら、右手で彼女の手を取る。
「不安な時は…このように私が手を握れば…名無し様は安心する…怖くなくなり…勇気が出る…」
声は震えるし、漠然とした言葉しか出てこない。
これでいいのだろうかと心配しながら、彼女を目覚めさせた。
術師の言った通り、意識が落ちている間の事は全く覚えていない様子。
思わず強く抱きしめてしまった事も覚えていなかったので、三成はほっとした。
翌日
晴れ渡った空の下、三成と名無しは中庭をゆっくり歩いていた。
二人の手はしっかりと繋がれている。
「久しぶりの外は凄く眩しい。でも…気持ちいい…」
「体調は大丈夫ですか?」
「うん。目眩は起きてないし、大丈夫そう」
(良かった…)
部屋を出る前は躊躇していた名無し。
しどろもどろだった昨日の暗示は、果たして有効なのか…?
三成がドキドキしながら手を差し伸べると、彼女はそっと手を重ねた。
両手で包むと彼女はしばらく目を閉じ、手の温もりに集中するように、そのままじっとしていた。
お互いの体温が溶け合っていくような感覚。
やがて目を開けて彼女は歩き出した。
どうやら安心させる事はできたようで、三成は安堵しながら一緒に歩き始める。
歩調を合わせ、何かあればすぐ支えられるように注意を払いながら。