第22章 貴女を意のままに1【三成】
一人になると、どっと不安が押し寄せる。
術師の人となりを見極めて施術を任せたつもりだったが、果たして正しい判断ができているのだろうか。
名無しの事となると焦りが出て、冷静さを失ってしまっているのを自覚している。
心配しながら待つ時間は長く、永遠に続くように感じた。
「石田様、こちらへお越しいただますでしょうか」
「はい」
呼びに来た女性術師は三成を見て、
ふふっ
と柔らかく笑った。
嬉しそうだ、と三成は思った。
何となくその瞬間だけ隙が緩んだというか、彼女の女性としての素の顔が見えたような。
それは一瞬で、すぐに彼女は踵を返して歩き出し、三成もその後ろに続いた。
「石田様は、今まで名無し様の為に本当に色々な事をされてきたのですね」
「ええ…でも全て上手くいきませんでしたが」
「いいえ。ちゃんと名無し様の心に届いていますよ」
女性術師が部屋の襖を開けると、その中の光景に三成はハッとした。
名無しは目を閉じてぐったりと脱力し、その身体を後ろから男性術師の腕に支えられている。
意識が無い様子だが、一体何をされたのか?
それに…男性に触れられている…。
その状況に、かあっと頭に血が上り焦りながら駆け寄ると、男性術師は名無しの身体をすぐに三成に預けた。
壊れ物に触れるように大事に彼女を腕に抱く。
「どうかご心配なく。術により名無し様は今、通常とは違う意識状態にあります」
「通常とは違う…意識?」
「はい、睡眠にも近いのですが、理性や緊張が緩んで心地良い状態。そして、心の壁が取り払われているので、私たちはその方の気持ちの奥底に触れる事ができます」
「……」
二人の術師は交互に説明をする。
それを聞き、頭を巡らせ理解しながら、三成は腕の中の名無しの顔を見つめる。
その表情は穏やかに緩み、この上なく無防備だった。
「過去の記憶を整理できず心の傷となり苦しんでいる方には、この状態で無理のない対話をして、思考の整理の手助けをします。絡まった糸を少しずつ解いていくように」
「それでは名無し様も…」
三成が顔を上げて二人の術師を見つめると、彼らは首を横に振った。