第22章 貴女を意のままに1【三成】
心を癒すという元忍び。
三成の元へ徐々にその情報が集まる。
男女二人で施術を行うらしく、貧しい者、富める者、分け隔てなく依頼を受けているようだった。
実際に施術を受けた数人からの体験談を直接聞く事ができたが、いずれも良いもので、中には涙を流しながら術師への感謝を述べる者もいた。
やがて、彼らに直接連絡を取れる者に行き着いた。
三成は深く悩んだが、弱っていく名無しの様子にいよいよ猶予が無いのを感じる。
思い切って依頼の連絡をした。
体力の無い名無しを動かせないので、厳重な警備の元、術師を三成の御殿に呼び寄せた。
名無しに会わせる前に、まずは三成が彼らに対面する。
聞いていた通り、彼らは男女二人組。
姉弟だという二人の顔貌は良く似ており、それは非常に美しいものだった。
切れ長の目と高い鼻根部から伸びた細い鼻梁は鋭く直線的だったが、眉と唇は優美な弧を描き、常に微笑みをたたえているように見える。
いずれも艶のある長い髪を後ろで束ねていた。
背丈や体つき、声で性別はわかるが、彼らの顔だけ見ると中性的で男女の判断は付き辛い。
本当に忍びだったのだろうか、彼らの纏う空気はあまりに静かで澄んでいる。
まるで夏でもなお涼しい渓谷、そこを絶え間なく流れる小川のせせらぎのよう。
そんな穏やかな雰囲気は三成に安心感を与えたものの、彼らのふとした立ち居振る舞いには忍び特有の隙の無さがあり、緊張と警戒は緩められなかった。
「遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます」
三成が声をかけると、
「いえ、姫様のお力になれるよう最善を尽くす所存でございます」
背が高く、低い声の男性術師は、透明感のある青みがかった灰色の瞳で三成を真っ直ぐ見つめ、頭を下げた。
背が低く、声の高い女性術師もやはり、澄んだ赤みがかった灰色の瞳で目線を三成としっかりと合わせてから、同じように頭を下げる。
三成は事の経緯を話し、術師からの質問にもいくつか答えた。
彼らの眼差しや話し方には、何を言っても全てを丸ごと受け入れてくれるような包容力があった。
受け答えは真摯で必要な事は話すが、余計な事は聞かないし、言わない。
彼らに好印象を抱き、名無しに会わせても大丈夫だろう、と三成は最終的な判断を下した。